【公式】福岡市東区香住ヶ丘の酒見内科胃腸科

スキリージインターネットライブセミナーで講演を行いました

2023年12月18日にスキリージインターネットライブセミナーで講演を行いました。
この数年、図1に示す様にクローン病に対する新規治療薬剤が立て続けに使用できるようになり、患者さんにとっては治療選択肢が増えたことで病気のコントールが得られ易い状況になってきました。






今回、私が行った講演は2023年1月に本邦で使用可能となりましたスキリージ(一般名:リサンキズマブ)という薬剤についてです。

クローン病は未だに原因不明の腸管に慢性的・持続的な炎症を起こす病気であり、炎症はリンパ球を中心とした炎症細胞によって引き起こされます。
炎症細胞からはサイトカインという物質が出ており、このサイトカインが腸管に炎症を起こしています。数あるサイトカインの中で特にTNF-αと呼ばれるサイトカインがクローン病においては中心になるサイトカインであることから、TNF-αをターゲットとした抗TNF-α抗体製剤(商品名:レミケード、ヒュミラ)によってクローン病治療が行われてきました。抗TNF-α抗体製剤はとても良く効く薬剤であり、クローン病治療にパラダイムシフトを引き起こした薬剤、ミラクルドラッグとも言われていますが少しずつその効果が低下していくことや副作用によって薬の継続投与が困難となることが分かっています。本邦のヒュミラの継続率は4年で61.7%と4年経つと約40%の患者さんが使用できなくなることから、効果が低下した患者さんをどのように治療していくかが問題でした(図2)。

 

 

その後の研究によってクローン病ではTh17と呼ばれるリンパ球が病気にとても強く関与していることが判明しました。このTh17と呼ばれるリンパ球はナイーブT細胞より分化しますが、その分化(成長)にはIL-23と呼ばれるサイトカインが必要になります。そのIL-23を抑えることでナイーブT細胞からTh17への分化を抑える薬剤がスキリージになります(図3)。

 

スキリージは初回投与、4週目、8週目の3回までは点滴投与となり、12週目に皮下注射を行ったあとは8週毎の皮下注射となります。
本邦でも行われた臨床試験(ADVNACE試験)では、約60%の患者さんが抗TNF-α抗体製剤を含めた生物学的製剤の投与経験があり、約30%の患者さんが2剤以上の生物学的製剤投与を受けていましたが良好な成績を残しました。
治療開始から12週間後(3回の点滴投与後)の寛解率は43.5%とプラセボ群よりも2倍の寛解率を示しました。また、レミケードなどの生物学的製剤による治療が行われた症例においても40.5%の患者さんが寛解を得ており生物学的製剤の投与を受けていない患者さんと遜色無い良好な成績を得ていました(図4)。

 

 


つまり、これまでの薬剤に抵抗性を示した患者さんにおいてもスキリージの投与によって症状を改善させることができる可能性が出てきました。

既に私もこの薬剤を10例以上に使用していますが、有効性の高さを実感しています。その中の一例を提示します。
こちらの患者さんは20年以上のクローン病の治療歴の中で複数回の手術を受けられ、これまでにレミケード、ヒュミラ、ステラーラ、エンタイビオと複数の治療薬剤を使用していましたが病気のコントロールが難しい状況でした。最後に受けられた手術後も再発を認め、病気のコントロールが付かずにスキリージを使用しました。使用する前には多発する潰瘍を腸管に認めていましたが(図5)、スキリージを使用すると症状がどんどん改善し3ヶ月後の内視鏡検査では図6まで改善しました。この様に難しい症例でもスキリージの使用によってクローン病の病勢をコントロールすることができる様になってきたのです。
また長期に有効性が持続できる可能性も期待されており、今後の長期維持に関するデータが待たれるところです。

 

 

 

2002年に抗TNFα抗体製剤であるレミケードがクローン病に使用できるようになった際、レミケードはクローン病治療にパラダイムシフトを引き起こしたと言われました。このスキリージも同様のインパクトを残す可能性があり、クローン病治療のゲームチェンジャーになる可能性を秘めた薬剤なのかもしれません。

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