コラム

IBD患者さんの就労実態とその課題-病名を職場に伝えるかどうか、働きながら治療を続けるために-

この文章は、IBD Researchに掲載された原稿「IBD患者の就労実態とその課題(病名告知などの患者の不安)」の内容をもとに、患者さんやご家族にも読みやすいように書き換えたものです。IBDは治療を続けながら働くことができる病気になってきていますが、
一方で、職場での理解、通院、トイレへの配慮、病名を伝えるかどうかなど、患者さんが悩みやすい課題も残されています。

IBDとはどのような病気か

炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel disease)は、腸などの消化管に慢性的な炎症が起こる病気の総称です。
代表的な病気には、潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)があります。

IBDは若い年代で発症することが多く、進学、就職、結婚、子育てなど、人生の大切な時期に病気と向き合うことがあります。そのため、症状をよくするだけでなく、「学校生活や仕事をどう続けるか」「自分らしい生活をどう守るか」も、治療の大切な目標になります。

近年は治療薬が増え、病状を落ち着かせることが以前より可能になってきました。治療の目標も、腹痛や下痢、血便などの症状を抑えるだけでなく、内視鏡で炎症を改善させること、そして生活の質(QOL)を保つことへ広がっています。

IBD患者さんの就労状況

IBD患者さんの多くは、治療を受けながら仕事を続けています。IBD患者さんを対象とした調査では、フルタイム・パートタイムなどを含めると、約7割の方が就労していると報告されています。
これは、難病患者さん全体の就労率と比べても高い結果でした。

一方で、病気が仕事に影響している方も少なくありません。報告によっては、発病後に「病気のために退職した」「就職できない時期があった」「転職した」と答えた方が一定数おり、病気によって仕事の継続や選択に大きな影響を受けることがあります。

また、就職活動や転職活動中にIBDを発症した患者さんでは、半数以上が活動に苦労し、約3分の1の方は体調悪化のために就職・転職活動そのものが難しかったと報告されています。IBDは、働き始める前、働いている途中、復職の場面など、さまざまな時期で患者さんに影響を及ぼす可能性があります。

病気の活動性と働きづらさの関係

IBDでは、症状が強く出ている「活動期」と、症状が落ち着いている「寛解期」があります。活動期には、腹痛、下痢、血便、発熱、倦怠感などにより、予定を変更せざるを得ないことがあります。ある調査では、再燃によって約半数の患者さんが予定を変更し、約3割の方が病気休暇を避けるために、勤務形態の変更や調整を必要としたと報告されています。

仕事への影響には、欠勤(absenteeism)だけでなく、出勤はしていても体調不良のために本来の力を発揮しにくい状態(presenteeism)があります。IBD患者さんでは、欠勤よりも、このpresenteeismが問題になりやすいとされています。

特に活動期では、欠勤、仕事中の能率低下、日常活動の制限が強くなります。
一方で、寛解期であっても、疲れやすさ、気分の落ち込み、仕事への意欲低下、トイレへの不安などが残ることがあり、健康な方と比べて仕事のしづらさを感じる患者さんがいることも報告されています。

用語

患者さん向けの説明

Absenteeism

病気や体調不良のために仕事を休むこと

Presenteeism

出勤していても、体調不良などで十分に力を発揮できないこと

Activity impairment

仕事以外の日常生活や社会活動が制限されること

寛解期でも「困っていない」とは限らない

IBDでは、検査や症状が落ち着いている寛解期でも、患者さんがまったく困っていないとは限りません。
疲労感、イライラ、不安、外出先や職場でトイレに間に合うかという心配、食事制限などが、仕事や生活に影響することがあります。

潰瘍性大腸炎患者さんを対象とした調査では、就業上の困難として「病気が原因で昇進や出世が遅れる、期待できないと感じる」と答えた方もいました。また、就業上の困難を抱える患者さんでは、生活の質を示す尺度のうち、特に情緒面の得点が低い傾向が示されています。

つまり、IBDの治療では腸の炎症を抑えることだけでなく、患者さんが安心して仕事や日常生活を続けられるように支えることも重要です。

職場で感じやすい困難

IBD患者さんが職場で感じやすい困難には、次のようなものがあります。

  • IBDが「良くなったり悪くなったりする病気」であることを理解してもらいにくい
  • 見た目では病気が分かりにくく、体調不良を説明しにくい
  • 勤務中にトイレへ行きにくい、またはトイレが遠い
  • 通院や検査のための休みを取りにくい
  • 食事制限があり、職場の会食や飲酒を断りにくい
  • 症状がある時に業務量や勤務時間の調整を相談しにくい
  • 病気を理由に評価や昇進へ影響するのではないかと不安になる

とくにクローン病では、病状によって脂質制限などの食事管理が必要になることがあります。そのため、仕事上の付き合いで食事や飲酒を勧められた時に断りにくいことも、患者さんにとって大きな負担となる場合があります。

病名を職場に伝えるかどうか

IBD患者さんにとって、病名を職場に伝えるかどうかはとても悩ましい問題です。
病気のことを伝えることで、通院やトイレ休憩、勤務時間の調整などについて理解を得やすくなる可能性があります。
また、病気を周囲に知ってもらうことで、共感やサポートにつながることもあります。

実際に、IBD患者さんを対象とした調査では、9割以上の方が学校や職場など、社会的な関わりのある人に病気のことを伝えていたと報告されています。
この結果からは、多くの患者さんが、病気を伝えることで必要なサポートを得たいと考えていることがうかがえます。

一方で、病名を伝えることには不安もあります。「昇進や出世に影響するのではないか」「病気のことばかり聞かれるのではないか」「偏見を持たれるのではないか」と心配する方もいます。
実際には、病気を伝えた後でも、職場や学校に理解されていると感じる方は半数程度にとどまるという報告もあります。

そのため、病名を伝えるかどうかに、すべての患者さんに共通する正解はありません。仕事内容、職場の環境、病状、必要な配慮の内容、患者さん自身の考え方によって、望ましい対応は異なります。大切なのは、一人で悩まず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、難病相談支援センター、難病患者就職サポーターなどに相談しながら考えることです。

仕事を続けるために必要な配慮

IBD患者さんが治療と仕事を両立するためには、病状に応じた配慮が必要になることがあります。
特に多くの患者さんが求める配慮として、トイレへ行きやすい環境、トイレ休憩の取りやすさ、通院や検査のための時間確保が挙げられます。

報告では、7割以上の患者さんが「トイレへアクセスしやすいこと」を必要としている一方で、約3割の患者さんは「勤務中にトイレに行きにくい」と感じているとされています。これは、職場で必要な配慮が十分に行き届いていない可能性を示しています。

職場での配慮は、患者さんへの特別扱いではありません。病気によって生じる働きづらさを少しでも減らし、その人が本来の力を発揮できるようにするための調整です。たとえば、トイレに近い席への配置、急なトイレ離席を認めること、通院日の勤務時間調整、体調不良時の在宅勤務や業務量の調整などが考えられます。

合理的配慮とは

合理的配慮とは、障害や病気によって社会生活や仕事の中で生じる困りごとに対して、過度な負担にならない範囲で、必要な調整を行う考え方です。
IBD患者さんの場合、症状や職場環境によって必要な配慮は一人ひとり異なります。

たとえば、トイレに行きやすい勤務場所にする、通院や検査の日程に合わせて勤務を調整する、症状が強い時期には業務量を一時的に調整する、食事制限があることを職場で共有する、といった対応が考えられます。

合理的配慮は、患者さんだけが我慢するものでも、職場だけが一方的に負担するものでもありません。患者さんと職場が相談しながら、無理のない形で働き続けるための方法を一緒に考えることが大切です。

利用できる支援・相談先

近年、難病患者さんの「治療と仕事の両立」を支援する取り組みが進んでいます。IBD患者団体からは、就職活動や就業継続のための冊子「わたしのトリセツ」が発行されています。
また、難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班からも、IBD患者さん向けに「治療と仕事」両立のためのQ&Aが作成されています。

これらの資料では、就職活動時、就労中、復職時など、それぞれの場面でどのように相談すればよいか、どのような準備ができるかが分かりやすくまとめられています。

病気のことを職場に伝えるべきか、どのような配慮をお願いすべきか、就職活動でどのように説明すべきか悩む場合には、医療機関だけでなく、難病相談支援センターやハローワークの難病患者就職サポーターなどの支援機関に相談することも選択肢になります。

まとめ

IBD治療は大きく進歩し、多くの患者さんが治療を受けながら仕事を続けられるようになってきました。
しかし、病状が落ち着いていても、疲労感、トイレへの不安、食事制限、通院、病名を職場に伝えるかどうかなど、働くうえでの悩みを抱えている患者さんは少なくありません。

IBD患者さんが安心して働き続けるためには、医療による病状コントロールだけでなく、職場での理解、必要な配慮、相談できる支援体制が重要です。患者さん一人ひとりが、自分の能力を発揮し、自分らしい働き方や生活を実現できるよう、医療機関、職場、行政、社会全体で支えていくことが求められます。

当院では、IBDの治療だけでなく、患者さんが学校生活・仕事・家庭生活を続けながら治療と向き合えるよう、必要に応じて相談や情報提供を行っています。仕事や病名開示、通院との両立で悩まれている方は、診察時にお気軽にご相談ください。

福岡市東区香住ケ丘の「さけみ内科・内視鏡IBDクリニック」

福岡市東区香住ケ丘の「さけみ内科・内視鏡IBDクリニック」は、一般内科から消化器疾患の専門医療まで幅広く診療しています。

地域に根ざした「かかりつけのクリニック」でありながら、消化器疾患において専門の医療を必要とする方の受け皿としても対応し、さまざまな患者さんの健康と向き合ってまいります。

患者様と一緒に治療を考え、ご納得いただける診療をお約束いたしますので、お困りのことがありましたらいつでもご相談にお越しください。

 

さけみ内科・内視鏡IBDクリニック

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